「いいの。どうせ私なんて、あんな……」


串さとの店長に押し倒されて貞操の危機に陥ったことを思い出して、思いきり眉をひそめた。


「なにがあったの? なんか今日は、十文字くんいびりが少なかったよね?」

「はっ? いびってないわよ。教育でしょ、教育」


彼女の言う通り、帰社してからはなにも口出ししなかった。

どうやら彼は記憶にないらしいが助けてもらった恩もあったし、なにより動揺したままで十文字くんどころではなかったのだ。


「実は――」


私はさらにビールを口に運んでから、今日あった出来事を彼女に話した。


「うわー。最悪」
「うん。まだこの辺とか気持ち悪くて」


中島さんに触れられた腕をさすると、「かわいそうに」と真由子がしかめっ面をしている。


「犯罪じゃない。警察行く?」
「十文字くんが助けてくれて被害がなかったからそこまでは考えてない。もう思い出したくもない」