「被害者はひとりじゃないんだ」
「はい。でも、匿名の書き込みなのでどこまで信じていいのか……」


それ、本気で言ってるの? 
さっき私が襲われそうになったのを見たでしょ? 黒よ、黒!と思ったけれど、あの辺りの記憶がないのか……。


「わかってるなら先に言いなさいよ。危なかったんだから」
「だって、どうしても行くというから……」


なるほど、それで朝から串さとへの訪問に難色を示していたのか。
彼の精いっぱいの抵抗だったわけね。

でも、あんなに弱い訴えではわからないわよ、普通。


「ごめん。私がせっかちなところもいけないね。反省する。だけど、十文字くんも思ったことはちゃんと主張して。さっきはかっこよか――」


ちょっと待って。
私、なんて言おうとしたの?


「なんですか?」
「なんでもない。とにかく、営業にしては押しが弱すぎなの」


助けてもらったくせして、啖呵を切った姿や、熱く迫ってきた彼を思い出すと妙に照れくさくて適当にまくし立てる。