「覚えてないって……大丈夫なの? 脳の検査をしてもらったほうがいいよ?」


忘れられないほど強烈な記憶のはずなのに。
私はしばらくトラウマになりそうだ。


「そう、ですね……」
「でも、店長の女性関係まで調べてあるとはびっくりだよ」
「……僕、その話しましたか?」


それすら覚えていないのか。
本当に平気?


「うん、した」

「それは、篠崎さんに調査は念入りにするように注意されたからです。一度店に飲みに来てみたら、客に手を出したと噂話をしている人がいて、SNSに載ってたって……」


そこまで言った彼は、スーツのすべてのポケットを確認してから「スマホがない!」と騒ぎ始めた。


「朝、忘れてきたって言わなかったっけ?」
「そうでした」


すっとぼけている彼は放置して、自分のスマホで串さとを検索すると、たしかに店長の悪い噂が出てきた。

しかも、最初の発言に【私もホテルに誘われた】とか【キスされそうになって逃げた】とか、わんさかリプライがついている。