どうやら私が無理やり抱きしめたわけではないことは納得したようだけど、そこまで盛大に後悔されると複雑だ。
『抱きしめるなんて』と絶句するとは、若干失礼な気もするんだけど。
「すみません」
「謝られるようなことはされてないから大丈夫」
襲われそうになっていたところを助けてくれたのは十文字くんだし。
それにしても、あの無駄に色香漂う彼はなんだったの?
いまだ心臓がバクバクと大きな音を立てている。
「えっと、店に行ってどうしたんですっけ?」
え? まさか覚えてない? そんなわけ、ないよね?
「どうしたって、私が店長に襲われそうになって、十文字くんが助けてくれたんじゃない」
「僕が?」
キョトンとした顔で聞き返す彼に、ついさっきの出来事がすっぽり頭から抜けていることを知った。
そういえば『時々記憶がないんですよね』と言っていたけど、こういうこと?