こういうときは目を開いていたらおかしい? 
ううん、どうして十文字くんとキスするの?

ただただ呆然としてなすがままにされていると、彼の唇があと数センチに迫り、思わず目を閉じた。


「あれ?」


しかしいつまで経っても唇が触れる感覚がなくゆっくりまぶたを持ち上げると、十文字くんが目を真ん丸にして固まっている。


「し、しっ篠崎さん、なにしてるんですか? 僕を襲うつもりですか?」
「は?」


まるでばねに跳ね飛ばされたように勢いよく離れていった十文字くんは、口をあんぐり開けている。

あれっ。
『あやめ』から『篠崎さん』に戻ってる。
しかも、いつもの十文字くんだ。


「襲うわけないでしょ!」
「だ、だって……」


さっきまでの彼はなんだったの?


「誤解よ! 十文字くんが抱きしめてきたのよ」


誤解されたままではセクハラでクビになりかねないと必死に訴える。


「あぁぁ、なんてことを……。篠崎さんを抱きしめるなんて……」