私はデスクの上に置いてあるティッシュの箱を丸ごと差し出す。
すると彼は二枚とって額と首筋を拭った。

次はいびつに結ばれたネクタイに手を伸ばして、きちんと締め直して整える。
それから……。


「十文字くん、うしろ向いて」
「はい」


あーぁ。
今日もほんのり茶色がかったきれいな髪に、ばっちり寝癖がついてる。

こんな姿でよく電車に乗れるなと感心するが、この姿のままクライアントのところには行けない。

私は自分のデスクの引き出しから寝癖直しスプレーを取り出して、彼の髪にシュッとひと吹きしたあと、くしで梳かした。

まるでお母さんだ。


「ねぇ。この髪、どこでカットしてるの?」
「駅地下の千円のところです。あっ、この前値上がりして千二百円になりました」


二百円の値上げがどうとかなんて、興味はない。


「で、いつ切った?」
「うーん。いつかなぁ」


覚えてないくらい前よね。

彼が私の下についてからはや四カ月近くになるが、私も髪形が変わった記憶がないもの。