それだけでなく、私の腕をグイッと力強くつかんだ彼は、背筋をビシッと伸ばして颯爽と歩き、店を出て私を車の助手席に押し込んだ。
運転席に乗り込んできた彼は、先ほどからの鋭い目を今度は私に向ける。
怒ってる?
「体なんて張るんじゃねえよ」
「わ、わかってるわよ。私だってそんなつもりはこれっぽっちもなかっ……」
あれ、どうしたんだろう。
今頃になって涙があふれてきてしまった。
「たく! 隙だらけなんだよ、お前は」
あきれ顔で私を叱る彼は、驚くことに身を乗り出してきて私を優しく抱きしめた。
「震えてるじゃないか」
「……うん」
まさか、十文字くんに慰められるなんて。
「調査は念入りにじゃなかったのか?」
「そう、だけど。女性関係までわかんないよ」
そんなこと、調べようとも思わなかった。
でもまさか、女性関係が原因で好調だった店の経営が危うくなっていたとは。
客にまで手を出したとなれば、嫌厭されるのも仕方ないか。
私もそんな人が店長をやっている店には行きたくない。