朝直したはずのネクタイがまた曲がっていたので、車を降りる前に整えてあげる。

これも教育のうち? 

違う気もするが、自分が気になるので仕方ない。


「それじゃあ、行くよ。ここは私が話をするね」
「はい……」


彼にはまだ新規開拓は早い。
既存店でうまく立ち回れるようになってからだ。


店の近くのコインパーキングに駐車したあと、相変わらず浮かない顔をしている十文字くんを連れて店を訪ねた。


実は以前、アポイントを取るために電話を入れたことがある。
しかしエクラの名前を出しただけで「いりません」と切られてしまった。

こういうことはよくあって、電話がダメなら実際に訪問するのみ。
話を聞いてもらえない可能性はおおいにあるけれど、こちらの本気度を伝えなければ。


「こんにちは」


緊張する局面ではあるが、十文字くんの前でひるむのもかっこわるい。
笑顔を作って声をかけた。