思いきり心の中で叫んではいたが、口に出して叱責すれば遅刻しそうだった十文字くんに気づいていない課長にわざわざ知らせることになる。


「はぁー」


大きなため息に怒りを込めて、お小言はなんとか呑み込んだ。


「電話には出てよ」
「あーっ、忘れてきました」


彼はカバンの外ポケットに手を突っ込んで顔をしかめる。
しかしそれも一瞬だった。


「使わないからいいや」
「よくないわよ、私が!」


大きな声が出そうになったがなんとか耐えて小声で反論すると、真由子が「仲良しね」なんて茶化してくる。


「はい。篠崎さんとは仲良しですよ」


その小学生みたいな返事はなんなの? 
それに、私はあなたの教育係なの。お友達じゃないの!

言いたいことは山ほどあったが、その前にやるべきことがある。


「はい、服装チェック」


九月中旬の今日はまだまだ暑く、彼の額には汗がにじんでいる。


「まずは汗を拭く!」