「あやめ」
部屋を出るために襖に手をかけたところで名前を呼ばれて立ち止まる。
「ん?」
「こっち向いて」
十文字くんの指示に固まった。
彼に背を向けた瞬間、涙が頬に伝い始めて止められなくなっていたからだ。
「どうして?」
私は振り向きもせず尋ねた。
大丈夫。声は震えていない。
「どうしてって……」
彼の声が聞こえたあと、立ち上がってこちらに向かってくる気配がしたので慌てる。
「ご飯作ってくるから、ケガ人は寝てなさい!」
命令口調で言い残し部屋を出ようとしたとき、うしろからフワッと抱きしめられて動けなくなる。
「なんで泣いてる。俺がいなくなると清々するんじゃないのか?」
責めるような口調のくせして、彼は私を優しく抱き寄せる。
なにも言い返せないでいると、彼の右手に力がこもった。
「お前、バカだよな。泣くほど寂しいのに、強がって」
「違っ……」



