なんなんだろう、この人。
「病院、行ってきなさいよ」
「わかりました」
「それで、なんの話だっけ? あぁ、そうそう。店長の言葉を否定しなかったのは二重丸あげる。でも営業としてはちょっと足りないの。相手の言い分は認めて持ち上げたあと、こちらの考えも伝える。それで、こっちの意見もおいしいよってさりげなく誘う。までできたら完璧かな」
これぞ営業トークというものだ。
人は、自分の意見をあからさまに否定されるといい気はしないものだ。
否定から入ると耳を閉ざされてしまうので、決して否定せず持ち上げておいて、こちらの言い分に引きずり込むのが正解。
「うわー、策士ですね!」
彼は小さく拍手をくれるが、まったく褒められている気がしない。
策士って……〝腹の中どす黒いですね〟と指摘された気分だ。
とはいえ、嫌みではなく素直に褒めているように見える彼にはなにも言えない。
「でも難しいなぁ。できるかな……」
「〝否定しない〟はできてるんだから、あとはどうにかして売りたいという気持ちを持てばいいんじゃない?」