「ねえ、そんなに記憶力がいいのに、どうして毎朝遅刻ギリギリで、髪がボサボサなの? 早起きしなさいって注意したこと、覚えてるんでしょ?」
「もちろん覚えてますけど、できないものはできません、はい」
自慢するところじゃないから、そのしたり顔はよしなさい。
「そうよね」
朝起きられないのは意思が弱いからであって、忠告を覚えていることとは関係ないか。
残念ながら納得せざるを得ない。
「でも僕、時々記憶がないんですよね」
「ん?」
記憶がないってどういうこと?
「いや、なんでもないです」
「なんでもないって、なにかの病気だったら怖いじゃない。病院は?」
「篠崎さん、心配してくれるんですか?」
きらきらした目で思いがけない言葉を返され、すぐに返事ができない。
「そ、そりゃあ、そうでしょ。後輩なんだから」
特に深い意味はないよ?
「ありがとうございます。うれしいな」
もっと深刻な話をしていたはずなのに、喜ばれてしまった。