目を開くと、先ほど訪ねたビルの前の歩道に座り込んでいた。
「どうされました?」
「あっ、いえっ。ちょっと転んでしまって……」
サラリーマン風の男性が声をかけてくれたが、銀髪の男の姿がどこにも見えない。
あんなケガでどこに行ったの?
「どこ?」
私は半分泣きながら周囲を探し回った。
しかし、血だまりもなければ、銀髪の男の姿も忽然と消えている。
驚愕しながら改めて周りを観察すると、なんでもない日常が広がっていた。
「あっ、米山さんは?」
彼はどこだろう。
蜘蛛に解放されたあとも気絶したままだったような。
私は慌ててビルの中に駆け込んだ。
すると米山さんが「篠崎さん」と笑顔で私の名前を呼んでいるので近づいていく。
「呼び出してごめんね。これ、置いてあったから、車に忘れ物でも取りに行ったのかと思ってたよ」
彼はサンプルの入ったエクラの紙袋を掲げた。
やっぱり記憶が消えている。



