数歩あとずさったあと、くるっと体を翻してビルの玄関を駆け出たところでまた周りの景色が見えなくなった。


「嫌……」


深沢さんのときと同じだ。

そういえば、銀髪の人がもののけは『弱っている人間に入り込み、その体を操る』と言っていたが、米山さんは愛猫を亡くして参っていたはずだ。

そこに付け込まれた?

振り返ると、うじゃうじゃともののけが湧いていて、その真ん中を切り裂くように米山さんが悠々と歩いてくる。


「来ないで」
「お前は俺の餌なんだよ」


あの蜘蛛なのだろうか。

まさか、ガイアの谷津さんにもなにか憑いてた? 

谷津さんもちょっと変だったし、あのときも嫌な空気を感じた。

真由子の話では、谷津さんもいきなりひとりで担当させられた上に、とんでもないノルマを被せられて病みそうだと悩んでいたそうだ。

彼も心の隙間に入り込まれたのかもしれない。


でも、お守りってなに? 
それがあれば助かるの?