アポイントがダメになったのかもしれないと思いながら電話に出ると、『もしもし、米山です』といつもの優しい声がする。
「篠崎です。お世話になっております」
電話なのに頭を下げてしまうのは営業の性だ。
『篠崎さん、ごめん。急な用ができて外に出てしまったんだ。少しなら時間を取れるから、協会まで来てくれないかな?』
リカーショップ米山の周辺の酒店は、小売店同士のつながりがある。
彼は今日、その協会の会合に出席しなければならないそうだ。
「わかりました。すぐに出ますので、三十分ほどで着きます」
私は余裕をもって伝える。
『ごめんね。それじゃ、待ってる』
小売店の横のつながりは私たちメーカーにとっても重要で、こうした会合で評判になって採用されたビールもある。
米山さん、うちの商品推してくれないかな……。
私はそう考えながら車を発進させた。