どうしよう。時間がない……。
「谷津さん。もしかしてガイアさんの新商品のことですか?」
唐突に十文字くんが口を挟む。
すると、谷津さんの眉がピクッと動いた。
図星かも。
でも、新商品って?
そんな話は聞いたことがない。
黙り込んだ谷津さんを見て、十文字くんは続ける。
「僕、とある得意先で資料を拝見しました。パートさんが見せてくださって」
どうしてそんな重要な話を今まで黙っていたのよ!
怒りたいところだが、今はそれどころではない。
米山さんが無理して時間を作ってくれたのに、遅れるわけにはいかない。
「十文字くん、アポに遅れるから先に行く。あと、よろしく」
「ちょっ、篠崎さん?」
とりあえずこの騒動が終息しそうだと感じた私は、十文字くんが焦りまくっていることに気づかない振りをして駆けだした。
営業車に乗り込むと、スマホが震えている。
「米山さんだ……。急用でもできた?」