私だって、それぞれのメーカーの大体の納入価もインセンティブの条件も把握済み。
それを得意先から聞き出すのが営業の腕の見せ所というものだ。
「あのねぇ、ガイアの商品が棚落ちしたからって、私のせいにしないで」
真由子は興奮気味に吐き捨て、谷津さんをにらむ。
やはり商売敵同士の恋愛は無理なようだ。
「ちょっと、ストップ」
なんとかしたくてふたりの間に割って入る。
するとそのとき、どよんとした嫌な空気がまとわりついた。
この久しぶりの感覚は、もののけ?
すぐに周囲を確認したものの、姿は見えない。気のせい?
「谷津さん、なにかの間違いではないですか? 岸田はしっかり者ですし、曲がったことは嫌いですから、情報を盗むなんてことはしないかと。どんな情報が流れたんですか?」
「そんなこと、言えるわけがないだろ」
それも一理ある。
ここでぶちまけられるくらいのことなら、怒って乗り込んでこないはずだ。