私が十文字くんに振ると、彼はハッとした表情をしてコクンとうなずいている。

そこは大きな声で「はい」でしょ?

彼は口下手だし会社のデスクも散らかっているが、棚づくりだけは得意なのだ。


「レシピは私にお任せください。何種類かご用意します」


店長は乗り気に見える。
ここはごり押しが正解かな?


「担当者と相談するよ」
「ありがとうございます。近いうちにまたうかがいます」


十分すぎる手ごたえを得た私は、十文字くんと一緒に店を出た。

再び車に乗り込むやいなや口を開く。


「十文字くん、効果的なディスプレイを大至急考えて」
「でも、まだ相談すると言っていただけで決定ではないですよ?」


そのへっぴり腰が営業には向いてないのよ。


「バカね。棚の配列もレシピも完璧にして次に持っていくのよ。そうしたら断りにくいでしょ?」
「なるほどー」


感嘆のため息をつく彼をこうした駆け引きができるように成長させるのは私の仕事だ。