心の中であいさつを済ませて振り返ると、浴衣を着直した十文字くんが立っていたので驚いた。
「おはようございます」
「おはよ。あはは、髪が爆発してる」
爆発というか逆立っている。
この様子からすると、毎日一応は整えてきているのかもしれない。
整えてもあれなのだろう。
うしろは自分じゃ見えないし。
「すみませ……」
彼は悲痛の面持ちで自分の頭を押さえた。
「ね。私、叱ってるわけじゃないから。しょうがないなってお母さんの気分」
真由子の言う通り、彼のお母さん的立場で微笑ましく思っているのだ。
「お母さん」
「ちょっ、一気に老けた気がするからそう呼ばないで」
こんなに大きい息子を持った覚えはない。
「いなくなってたからびっくりしました」
真顔で言う彼が、それほど私の心配をしていたのだと知った。
「ごめん。目が覚めたからごあいさつに」
「はい」