子供の頃はもののけが見えても、向こうからなにか仕かけてくることはなかった。
しかし、二十歳を過ぎた頃から、姿を現す頻度も、肩にのられるというような接触も増えてきた。
きわめつけは、カエルに首を絞められ、男の子に爪を立てられたことだ。
おそらく、上級のもののけだという大蜘蛛に命令されて、私を弱らせていたのだろう。
そしてじわじわ弱らせたところをパクッといくつもりだったんだ。
改めて考えると震えがきて自分の体を抱きしめる。
「大丈夫ですか?」
「うん、なんとか」
いくらヘタレの彼でも、そばにいてくれると心強い。
「僕、なにをしたらいいでしょう?」
「ありがとう。その気持ちだけでうれしいよ」
実際のところ、彼にはもののけが見えないのだからどうにもできない。
それにもののけが十文字くんに危害を加えないという保証はどこにもない。
彼を巻き込むわけにはいかない。