「どうしたんですか? あーん」
「ちょっとそれは……」
「どうしてですか?」
真顔の彼は、なぜ私がためらっているのかわからないらしい。
もじもじしていると余計に恥ずかしい気もして、思い切って口を開けた。
するとすぐにスプーンが口に入ってくる。
「おいしいですか?」
「うん」
私が作ったのに、彼に聞かれてうなずいた。
「いただきまーす」
それから十文字くんもパクパク食べ始める。
「幸せー」
満面の笑みを浮かべて食べ進む十文字くんと、頬にご飯粒をつけて一心不乱に口に運ぶ銀くんを見ていると、ホッとする。
生きていてよかった……。
「あやめ様! こんなにおいしいものは初めてです」
半分くらい食べたところでようやく勢いが緩まってきた銀くんは、ケチャップだらけの唇を動かす。
「大げさだよ。それに、私はあやめさんくらいでいいよ?」
主従ごっこはふたりでどうぞ。
「あやめ様は志季様の大切なお方ですから、あやめ様で」