深沢さんと食べたイタリアンは高級で贅沢な料理ばかりだったけど、よく味もわからなかったな。
あのときはもう、もののけたちに囲まれていて苦しくてたまらなかった。
あれが最後の晩餐にならなくてよかった。
ひとりになるとそんなことばかり考えてしまい、涙が頬に伝う。
やっぱり隣に誰かいてくれないと、怖くてたまらない。
「あやめ様ー」
菫色の浴衣姿で駆け込んできたのは銀くんだ。
浴衣を着るなんていまどき珍しいけれど、よく似合っていてかわいらしい。
「温まった?」
「はい。あやめ様、どうして泣いてるの?」
「な、泣いてないよ」
指摘され、慌ててごしごし目をこする。
「銀。いいからこっち」
そこに、体温が上がったせいかほんのり頬が赤らんだ十文字くんが現れた。
彼もまた鉄紺色の浴衣姿だったのでびっくりだ。
ただ、この古ぼけた社務所と神社からするとしっくりくる。
十文字くんを見ていると、さっき助けてくれた銀髪の人を思い出す。
どことなく似ていたのと、和服姿だからだろうか。