「もうひとり?」
「はい。とにかく行きましょう」
ようやく震えが収まってきた私はうなずいて素直にタクシーを降りる。
そして、十文字くんに支えられながら進んでいくと、彼は石畳みの階段を上がっていこうとした。
「ちょっと待って」
その先には古ぼけた鳥居が見える。
ここ、神社でしょ?
まさか、彼ももののけに操られている?と一瞬頭をよぎったものの、深沢さんがそばにいるときのような重い空気を感じない。
それどころか十文字くんに触れられるたびに不思議とその重苦しさから解放されてきた。
彼はもののけには無縁だと信じたい。
「言ってなかったですね。僕、ここの神社の社務所に住んでいるんです」
「社務所?」
「はい。実は祖父の代までは神主を務めていまして。でも、まったくお金にならないので、父は神社とは関係のない仕事をしていて今は海外にいます。ちなみに母はいません」