以前送ってくれたとき、近くだと言ってなかった?


「十文字くん、迷惑ばかりかけてごめん」

「篠崎さんは僕のお世話係じゃないですか。これくらい恩返しさせてください」


その気遣いがありがたい。

どこか抜けている彼だけど、優しいところだけは誰にも負けないと思う。

真由子は実家通いだし、他に頼れる友人もいない。
今は十文字くんにすがってしまおう。

それにしても深沢さんはどうなったのだろう。

銀髪の男は『先にあっちに戻った』と話していたが、あの奇妙な空間から解き放たれたあとも姿はなかった。

とはいえ連絡先も知らないし、たとえもののけに操られていただけだとしても、今は声を聞くのも怖かった。

二十分ほど走ったタクシーは、立派な一軒家が並ぶ住宅街に入っていく。


「その先で止めてください」
「もしかして、実家から通ってる?」


それなら迷惑はかけられないと尋ねると「もうひとりいますけど、大丈夫です」と返事が来た。