そういえば、留守番電話になったためしがないけれど、もしかして契約してない?
最近の若い子――といっても二歳しか違わないけど――にしては、スマホをいじっている姿も見ないし、珍しいタイプなのかも。
「出なさいよね……」
イライラして無意識にデスクを指でトントン叩いていると、「おはようございます」とまったく覇気のない彼の声が飛び込んできた。
「やっと来た!」
「おはようございます、篠崎さん」
「おはようじゃないわよ。何時だと思ってるの?」
こちらはヤキモキしていたというのに、悪びれる様子もなく平然とあいさつをしてくる十文字くんにキレそうになる。
「何時って……八時五十九分?」
彼は課長の席近くの壁にかかる時計をチラリと視界に入れて、〝なにを怒っているの?〟と言いたげだ。
九時始業なのだから、たしかに遅刻はしていない。
でもね、あなたは目をつけられているんだから、一分前に出社なんてギャンブルするのはやめて!