「な。なに?」


数回瞬きをしている間に、すべてが片付いたようだ。

たったひと振りで、あんな大きな蜘蛛をやっつけたの? 
この人は何者?


銀髪の男は、使っていた剣をポーンと空に向かって投げる。
するとそれもまたどこかへ消えてしまった。

それから彼は、動けない私のところまで歩み寄ってくる。


「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうござい……え、十文字くん?」


頬に流れた涙を拭い、銀髪の彼を凝視する。
見れば見るほど十文字くんに似ている。


「誰だ、それ」


違うに決まってるか。
他人の空似ってやつだ。
大体彼は銀髪だし、へっぴり腰くんがこんなことができるはずもない。


「すみません、なんでもないです。本当にありがとうございました」


高ぶった気持ちを落ち着けようと何度も深呼吸すると、彼は私の頭に手を置きポンポンと二度優しく叩いた。


「よく踏ん張った」
「……はい。でも、あの蜘蛛はなんなんですか? 餌って?」


私の前に片膝をついた彼に問いかける。