十文字くんがあれほど私から深沢さんを離そうとしたのは、深沢さん自身にもののけの気配を感じていたから?
ううん、十文字くんにはもののけの存在なんて知らないはずだから、偶然?
もうなにを考えたらいいのかもわからないほど錯乱し、恐怖のあまりカチカチと歯が音を立てる。
体の震えを自分では制御できない。
「あっ、そう。まあいい。それではひと思いにいただこう」
いただくって?
質問する間もなく彼はもう一度指をパチンと鳴らした。
すると、周囲にいたもののけたちが一斉に私をめがけて飛んでくる。
「嫌っ。来ないで!」
持っていたカバンを振り回すも、数が多すぎてとても間に合わない。
そのうち、何度もつきまとわれた絣模様の着物姿の男の子が目の前までやってきて、ニッと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「キャッ」
そして勢いよくドンとぶつかってきたあと、私の首筋に鋭い爪を立てる。
「おい、殺すなよ。そいつは俺のものだ」