彼が悪い人だとは思えないけど、ふたりで会うたびにこうしてもののけを感じて体調が悪くなるのには耐えられない。
しかも、どこかつかみどころがなくてなにを考えているのかもわからず、一緒にいても気が休まらない。
やっぱり無理だ。
「ごめんなさい。深沢さんが素敵な方だとはわかっているんですけど、やっぱり恋愛をする気にはなれなくて……」
当たり障りなく断ろうと話すと、彼は足を止めた。
「ふーん。俺の申し出を断るなんて、上等だ」
「え……」
人が変わったかのように侮蔑の眼差しを向けてくる彼に驚き、唖然として動けない。
「バカな女。誘いにのってくれば、もう少し優しく食ってやったのに」
「深沢さん、どうされたんですか?」
なにを言ってるの?
食ってやったのにってどういうこと?
彼はニヤリと笑い、パチンと再び指を鳴らす。
すると途端に視界から周りの景色が消えた。
「なに……?」
恐怖であとずさる間に、彼はもう一度パチンと指を鳴らす。