「深沢さんにエクラのお仕事が合ってたってことですか?」

「いや、篠崎さんに会えたから」


アンティパストのホタテとトマトのマリネに伸ばしていたフォークが止まる。

こういうことがサラリと言えるのが大人なんだろうな。
私は挙動不審なくらい視線を泳がせてしまった。


「ごめん。食べようか」


うまく返せない私に気づいた彼は、なんでもなかったように食事を進めた。


「あのっ、お聞きしたいことが」
「そうだったね。なんでも聞いて?」
「はい」


私は一口ワインをのどに送ってから話し始める。


「以前私に『変なものが見える人でしょ?』とお聞きになりましたよね。それで助けてくださると」
「あぁ、そうだね」


彼は食べる手を止め、余裕の笑みを浮かべる。
その笑みが、聞かれて困ることなんてないという意思表示なのだと感じた。


「私……ずっと悩んでいて。実は人ではないものが見えるんです。幼い頃からそうで、少し前までは無視をしたり一喝したりすれば消えてくれたんですけど、最近はそれだけじゃダメで……」