約束の時間より十分遅れて西口についたはいいが、深沢さんの姿が見えない。

遅れたから帰っちゃった? 
でも、十分で帰るって相当気が短いよね。


「篠崎さん」


走ったせいで荒くなった呼吸を整えていると、背後から声をかけられて振り向いた。
深沢さんだ。


「遅れてすみません。もう帰られたのかと……」

「えっ、大して遅れてないだろ? 帰らないよ。今は仕事中じゃないんだから」


クスクス笑う彼の表情が穏やかでホッとした。

私がびくびくしていたのは、仕事では時間厳守の人だからだ。

課長より厳しいので、彼が二課に来てから毎朝、十文字くんのギリギリの行動にハラハラし通しなのだ。

といっても、毎日絶対に始業時間前に滑り込む十文字くんは、遅刻しない能力の持ち主なのだとわけのわからない感心をしている。


「それに、仕事をしていて遅れた人に文句なんてないよ。レストランを予約してあるんだけど、行こうか」
「はい」