「あぁ、ごめん。ちょっと用があって」
「用って?」


珍しく追及してくるので、焦る。

もしかして深沢さんに会うと気づいている? 
そんなわけないか。誰にも言ってないし。


「ちょっと」


とっさに嘘が思いつかず、あいまいにごまかしてしまった。


「そうですか。すみませんでした」
「あぁっ、そんなにへこまないでよ。全然間に合うから」


一気にテンションが下がった十文字くんに慌てる。彼の扱いは時々難解だ。


「ごめん。月曜にもう一度話し合おう。それじゃあ、お先です」
「お疲れさまでした」


沈んだままの彼を置いていくのも忍びないが、深沢さんを待たせるのも悪い。

十文字くんには全然間に合うなんて言ったものの、十九時まではあと五分。
会社の玄関まで行くだけで精いっぱいだった。


「まずい」


玄関から西口までは走っても十分といったところ。私はすぐさま走りだした。