「篠崎さん、まるはの朱雀の件なんですけど――」
約束の時間は気になるけれど、必死に学ぼうとしている彼を放っておけない。
相談にのっているうちに、真由子も帰っていった。
「うーん。せめてあと一週間、エンド確保できないかな?」
すこぶる調子よく売れているのに、ガイアが別の商品をぶつけてきているのだ。
「販促金を出すと言っているみたいで」
「またお金か……。容赦ないな」
高いシェアを誇るガイアビールは、CMをバンバン打つし、すぐにインセンティブボーナスの話が出る。
営業も多少利益を削ってでも量が出ればOKと言われているらしく、我が社とは売り方が異なる。
「来週、私も顔を出して頼み込んでみる。レシピも好評なんでしょ?」
「はい。レシピを見て食材をそろえて帰るお客さんもいるようで、店長が――。篠崎さん、時間気にしてます?」
チラッと時計に視線を送ったことに気づかれてしまった。
抜けているように感じる彼だけど、こういうことは鋭い。