「お疲れさま」
「お疲れさまです。深沢さんもお飲みになりますか？」
「うん」


私はカップをひとつ追加した。


「なかなかふたりになれなくて……」


コーヒーをカップに注いでいると、私の隣に歩み寄った彼はささやく。
私は過剰に反応して手を止めてしまった。


「そう、ですね」


会議室ではなく自分のデスクで仕事をするようになったので、いつも人目があってプライベートの話はしにくい。


「十文字くんが失礼なことして申し訳ありませんでした。彼、急にひとりで営業に出るように言われたから、深沢さんに反発心みたいなものがあるみたいで」


十文字くんがあまりにつっかかるのでフォローしておこうと話す。


「わかってるから大丈夫。でも、そろそろ踏ん張ってもらわないとね」


怒っているわけではなさそうだ。大人の余裕を感じる。


「はい」
「それで、先日の続きなんだけど」


彼は私の横にぴったりとくっつくように立ち、コーヒーを注いだカップを手に取りながら口を開く。