うちも取引を始めていたら、損害が出ていた可能性がある。
調査が甘く、二号店の可能性があるからと張り切っていた自分が情けない。


「そう……。串さとの件は、十文字くんに助けられた。ごめんね、ふがいない先輩で」

『ち、違います! 篠崎さんは最高の先輩です。いないと僕、死んじゃいます』


それは大げさすぎるから。
でも、彼の心遣いがうれしい。


「ありがと。気を引き締めてもっと頑張るね。もう一軒あるよね?」
『はいっ。行ってきます』
「行ってらっしゃい」


ひとりで営業に出ることになった初日は、それこそ死にそうな表情をしていた彼だったが、以前より声に張りが出てきたようにも感じる。

甘えん坊の部分は加速している気がしなくもないけれど、それも不安を抱えながらも奔走している証なのかもしれないので、今は大目に見たい。


資料作りの作業が一段落したのでコーヒーを淹れに給湯室に向かうと、深沢さんが顔を出した。