近くに停めてあった車に乗り込むと、完全に頭が仕事に切り替わる。

もののけに遭遇するのはしょっちゅうなので、いちいち引きずっているとなにもできないのだ。

私は運転席に座った十文字くんに視線を向けて口を開いた。


「ねぇ、さっき店でなにしゃべった?」


彼はあの店に入って、私と一緒に「こんにちは」と言ったのみ。

パンフレットを出すタイミングは最高だったが、私のうしろに立っているだけだった。


「ごあいさつを」
「あのさ……。あいさつくらい小学生でもするよ?」


いや、幼稚園児だって……。

ふぅ、と大きなため息を漏らすと、彼は視線をそらした。


「そのおどおどした感じがまずいの。堂々としていないと、売れるものも売れないのよ」
「すみません……」


あぁ、うまくいかない。

教育係なんて仰せつかっているが、彼に成長は見られない。
彼が二課に配属されて四カ月経ったものの、最初に顔合わせした頃と同じだ。