しかし、コツコツとした積み重ねは大切だし、新規の採用は何度経験してもテンションが上がるもの。

それに今回は、十文字くんが初めて新規商品の採用までこぎつけたのだから、感慨深いものがある。


『はい。でも、篠崎さんが営業されたんですけどね』


たしかに、最初にレモネード風味のジュースを置いてもらえるように話したのは私。
けれども、ここ数回は彼が単独で訪問して交渉してきた。


「私はきっかけを作っただけ。おめでとう」
『ありがとうございます。僕……一生篠崎さんについていきます』
「いや、それはいいから」


ひとり立ちして?

とはいえ、感極まって泣きそうな様子の彼の声に、私もうるっとしてしまった。


『それと、もうひとつ』


今度はトーンの下がった十文字くんの声に緊張が走る。
棚落ちでもした?


『さっき、串さとの前を通ったら閉店の貼り紙がありました』


もしかしたらガイアビールは売掛金の回収が済んでいないかもしれない。