彼は口角を上げたが、なぜかその笑みに背筋が凍った。
「ほら、どうする?」
私の頬に手を伸ばしてきてそっと触れる彼は、選択を迫る。
触れられた瞬間、体がますます重くなった気がしてうなずきそうになった。
これがもののけのせいだとしたら、怖すぎる。
「なにしてる!」
そのとき勢いよく入口のドアが開き、深沢さんの手が離れた。
低く唸るようなその声の主は十文字くんだ。
串さとの店長にすごんだときと同じ鋭い視線を深沢さんに向け、すさまじい勢いで近づいてきて、彼の胸ぐらをつかむ。
「あやめに手を出すんじゃねぇ」
「ちょっ!」
いきなりなにしてるの?
慌ててふたりの間に割り込み引き離そうとするも、十文字くんの目が血走っていて手を離す気配はない。
どうしたの?
「なにをそんなに興奮しているんですか? 余裕のない男は嫌われますよ」
胸ぐらをつかまれたままなのに動じない深沢さんは、ニヤリと笑う。