いや、毎朝髪をピヨンと立ててくる彼が本物だ。
やっぱりありえない。
「そっか。篠崎さんがあまりにも彼をかばうから、そういう感情があるのかと思ってた。なるほど息子ね……。母性愛か」
彼は安心したように頬を緩める。
母性愛と言われても複雑だ。
恋愛もまともにしていないのに、いきなり母なのもちょっと。
「それじゃあ、彼氏が他にいる?」
「いえ。私、男運がないみたいで、あんまり積極的になれないというか……」
あまりこういう話をしたくないんだけどな。
「それよりそのデータ、もっと見せてくださ――」
話を変えようとすると、いきなりデスクの上の手を握られて目を丸くする。
妙な緊張が走り体がゾクッとするのは、男の人に手を握られたのが久しぶりだから?
「俺も、女運がなかった。結婚はしたけど彼女には別に好きな男がいて、俺に隠れて関係を続けていたんだ」