「冗談で言ってると思ってる?」
彼がイスを動かして距離を縮めてきたので驚いた。
「じょ、冗談ですよね。私に会えるって……。口うるさいだけなのに」
「口うるさい? 俺は全然そんなふうに思わないな。篠崎さんの発言はいつも的確だし、十文字くんへの注意がそういう印象を与えているのかもしれないけど、あれは彼のほうが悪い。もう少ししっかりすべきだ」
やはり、十文字くんのことをよく思っていないようだ。
「篠崎さんって、十文字くんのことが好きなの?」
とんでもない質問に眼球が転がり落ちるかと思った。
「なに言ってるんですか? 彼は息子みたいな存在で、男性としてどうとかなんて考えたことも……」
と言いながら、串さとの店長に襲われそうになったとき『お前に、あやめに触れる資格なんてねぇんだよ!』と啖呵を切った十文字くんのことを思い出していた。
あのときは鼓動が速まって制御できなくなったが、それは少しは男性として意識したということなの?
でも、彼は覚えていないようだし。