「まだやってたのか」
「深沢さん、帰られたんじゃなかったんですか?」


姿を現したのは、とっくに帰宅したと思っていた深沢さんだった。


「他社の商品の成分表を商品開発でもらってきたんだよ。新人に必要かと言えばここまではいらないけど、せっかくだから完璧にしたいと思ってね」


彼に差し出されたデータを見ると興味深い。


「これ、私が営業に使いたいです」
「もちろんどうぞ。それにしても篠崎さんは真面目だね。パートナーが君でよかったよ」


彼は十文字くんの席に座り、にっこり微笑む。


「それは過大評価ですよ」


彼があまりに凝視してくるので、妙に照れくさくなって視線をそらした。


「そんなことない。篠崎さんと一緒に仕事をするようになってから、毎日が楽しいんだ」
「そうなんですか?」


あれだ。持ち上げる会話ってやつだ、きっと。


「うん。仕事は大変なことも多いけど、篠崎さんに会えると思うと、会社に来るのも楽しみだ」
「それは光栄です」


彼は十文字くんより営業向きだな、とふと思う。