帰社して定時過ぎに十文字くんを帰らせたあと、私はパソコンに向かった。

彼は自信をつけていく段階なので、まだあまり失敗の経験をさせたくない。
慎重に策を練らなければ。

明日、ひとりで回ってもらう得意先の情報を引っ張り出して、どんな話をすべきなのかを丁寧に書きだしていく。

そっくりこのままできるわけがないことはわかっているが、彼の場合は具体的な例を出してあげるとうまくいくケースが多い。


そのうちひとりふたりと課員がいなくなり、新人のための資料の打ち込みを手伝ってくれていた真由子も、「体壊す前に帰りなさいよ」とねぎらいの言葉をかけてから帰った。

うーんと大きく伸びをしてひと息つく。


「頑張りどきだよね」


おそらく次に配属されるふたりは、先輩営業マンが教育を担当する。
だから資料を完成させて渡せば、深沢さんの手伝いは終わるはず。


「十文字くんのときも、こういうのがあればよかったのに」


今までは基礎的な知識以外は教育担当者に任せっきりで、マニュアルのようなものはなかった。

それに気づいた深沢さんが今回作ろうと奮闘している。

今後にも役立つはずだから、もう少しだけ踏ん張りたい。


――ガチャッ。

再びパソコンのキーボートに手を置いたとき、ドアが開いたので視線を向ける。