ましてや、お金を積まれては……。
「そっか。十文字くんのせいじゃないから」
私が行っても結果は同じだったかもしれない。
インセンティブボーナスをぶら下げられると、簡単にはひっくり返せないことが多いのだ。
もともと自信がない彼に、余計な失敗をさせてしまった。
でも、こうしたことはこの先も必ずある。
乗り越え方を教えるいいチャンス?
私はポジィティブに考えることにした。
「インセンティブがつくのって、期間限定でしょ?」
「はい。三カ月だけだそうで」
「それなら、終わった頃にもう一度チャレンジしよう」
そう提案したものの、彼の表情は冴えない。
「せっかくいい男になったんだから、ビシッとしなさい。一度失敗したくらいでへこたれないの。取り返してやるくらいの気持ちがないと、どんどんやられちゃうよ?」
彼の闘争心が燃えてこないかと期待して、軽めに叱る。
しかし、もしかしたらさらにへこむという逆効果を生む可能性もあるので、内心ドキドキだ。
人を育てるって難しい。
「そうですね。僕、頑張ります!」
彼に笑顔が戻ったので安堵の胸をなでおろした。
そういえば彼、ドM疑惑があったんだった。
ちょっと叱るくらいがちょうどいいのかも。
午後からは十文字くんと一緒に営業に出た。
内勤より営業のほうがストレスがたまることも多いはずなのに、体が重く感じることはない。
やはり外回りが向いているのかもしれない。