ただ、なぜか体が重い。
いつまで経っても疲れが抜けないようなけだるさと闘っている。
十文字くんと営業に出る間は、こんなことはないのに。
デスク仕事が性に合っていないのかもしれない。
昼過ぎになり十文字くんが真っ青な顔をして戻ってきた。
「篠崎さん」
「お疲れ。どうかしたの?」
もののけに遭遇するときよりももっと黒い空気を纏っている気さえする彼は、いきなり深く腰を折る。
「すみません。棚落ちしました」
「えっ、どこで?」
「山本さんのところで、ネクスト黒が……」
嘘! 先日採用になったばかりじゃない。
まだ売れる売れないの判断を下すには早すぎる時期だし、そこそこ在庫も減っていたはず。
「なんで? 売れてたよね」
「はい。ガイアがインセンティブを盛ったみたいで。やっぱり黒は何種類もいらないと」
ラガーとエールの違いはあれど、ひとくくりにすれば黒ビール。
店の担当者にこだわりがないと、こうしたことがあってもおかしくはない。