泣きそうになりながら声を振り絞る。
目の前のカエルが目をキョロキョロさせて、しきりに舌を出し入れしているからだ。
カエルまであと数歩。
なにもされずに通り過ぎることができるだろうか。
緊張で呼吸が浅くなってきたとき、「わっ!」と大きな声がして、十文字くんが派手に転んだ。
その拍子に、彼が持っていたカバンがカエルのところに飛んでいき、カエルが瞬時に姿を消したので、安堵のため息が漏れる。
転んだ十文字くんには悪いけど、助かった……。
「ちょっと、大丈夫?」
なににつまずいたの?
舗装されたきれいな歩道には石ひとつ落ちていないのに。
「あはは。やっちゃいました」
彼は私が整えた髪をくしゃくしゃとしてバツの悪そうな顔で笑う。
「ケガは?」
全力疾走してきた幼稚園児のような豪快な転び方だったけど、無事なの?
「大丈夫です。心配してくれるんですか? 優しいなぁ」