そういえば、飲み会のときもにらみつけているような気がしたけれど、深沢さんのことが嫌いなの?
早くひとりで回れと言われたから?
「十文字くん。深沢さんがひとり立ちしなさいって言ったのは、十文字くんのことを心配してのことだよ?」
と言いつつ、別の部署への異動を考えていた深沢さんのことを思い出し、そういう雰囲気を感じ取ったのかなとふと感じた。
「篠崎さん」
そのとき深沢さんが顔を出した。
「遅いからどうしたのかと思ったよ」
「すみません」
コーヒーのことなんてすっかり頭から飛んでいた。
慌ててコーヒーメーカーをセットし始めると、彼は隣までやってくる。
しかし、なぜか十文字くんが私たちの間に割り込んできた。
「篠崎さん、僕やります」
「ありがと」
こういうことは珍しくはないけれど、体のねじ込み方がかなり強引だったので首をひねる。
「十文字くん、得意先でたくさん注文をいただいてきたそうです」
彼は無能ではないと主張したくて、深沢さんに伝える。
「そう。よかったですね。あっ、しまった。別の用を忘れていました。篠崎さん、今日の資料作りはここまでで」
「わかりました」
「せっかく淹れてもらって悪いけど……」
深沢さんはドリップされるコーヒーに視線を送る。
「おかまいなく。僕が飲みます」
私が答える前に十文字くんが返事をした。
やっぱり棘を感じるけど、このふたり、なにかあった?
「そう。それじゃあ」
深沢さんは苦笑したあと去っていった。