「危ないですよ」
耳元でささやかれ、拍動が速まるのを感じる。
彼の声に妙な色気があったからだ。
「あ、ありがとう。もう大丈夫。……あれっ?」
抱きしめられているのが照れくさくなり離れると、体が軽くなっていることに気がついて目を瞠る。
「どうしました?」
「ううん。なんか、治っちゃった」
立てないほど重症だったのに、一瞬で健康体に戻るなんてある?
しかも、十文字くんが私に触れた瞬間だった。
そういえば、前にもこんなことがあったような。
「よかったです」
いろいろ腑に落ちないことはあったものの、彼のフニャッとした笑顔を見たらなんだか安心した。
深沢さんと初めてタッグを組んだ仕事で緊張してたのかな。
「それより、戻ってくるの早くない?」
「それが……」
途端に顔をしかめる彼を見て緊張が走る。
やっぱりなにかしでかした?
「どうした?」
「リカーショップ米山で、パートさんたちに『そのエプロンお似合いですね』と持ち上げる会話をしたら、囲まれてしまったんです」