そんなことを頭の片隅で考えながら書類を読んでいく。
「ビールについての知識は基礎研修で学んでくるとして、他社の商品との差別化ポイントを教えてあげるといいかもしれないですね。営業に出ているとわかってきますが、経験を積むのは短期間では無理ですから」
生意気かもしれないと思ったけれど、十文字くんと一緒に行動していて、どんな情報をあげれば彼が動きやすくなるかを常に考えてきたので、口をついて出た。
以前、別の後輩の教育係をしたこともあるが、彼は私が営業している姿を見て自力で必要なことを学んでいったので、そういう点では苦労はなかった。
しかし、慣れてくると私の意見を聞かなくなり、好き勝手しだしたので得意先で大きな失敗をして課長にこってり絞られたことがある。
一方十文字くんは、教えてあげさえすれば素直に耳を傾けるし、どうやらきちんと勉強も積んでいる。