「はい、うしろ」


そして相変わらず寝癖のついている髪にスプレーをひと吹き。朝の儀式の終了だ。


「こういうところがなければ、女の子にキャーキャー言われるのにね」
「言われたくないです、僕」


真由子のつぶやきにすかさず反論する十文字くんは、いたって真顔だ。


「あやめお母さん、育て方間違ったんじゃない? マザコン気味よ?」
「うるさいな」


彼は一癖も二癖もあるんだから。
辞めずに続いているだけでも褒めてほしい。


「仕事するよ、仕事。これ、今日行く先のリスト。午前中私は深沢さんと仕事をするから、十文字くんはここに顔を出してきて」


彼のデスクに予定表を置くと、カチカチに固まっている。

まだ会社から一歩も出ていないのに緊張してどうするの?


「二軒だけでしょ? ほら、そのうち一軒はスーパーまるはのエンドの棚の提案だから自信持って」


彼がイラストを起こしたあの棚のことだ。