「十文字くんって、時々口調が変わるよね?」
「そうですか? 僕、なんかやらかしてますか?」
ヘタレモードのいつもの彼だ。
「違う違う。なにもやらかしてなんてないけど、時々キリリとするというか、うーん」
『かっこよくなる』と漏らしそうになって口をつぐんだ。
時々かっこいいなんて、いつもはそうじゃないと言っているようなもの。
最高に失礼だ。
「そうでしたか。キリリ、キリリ……」
彼は眉根を寄せて真面目に考え込んでしまった。
「私の気のせいかもしれないから。なんでもないならよかった」
私が言うと、彼はうれしそうに微笑んだ。
その後、電車で三十分ほどかかる私のマンションまでしっかり送ってくれた。
「本当にありがとう。十文字くんの家ってどこだっけ?」
「すぐ近所ですからご心配なく。篠崎さん」
真顔になった彼は、私を凝視してくる。
「うん」
「気をつけてください」
「ん?」
気をつけて、というのはもののけのこと?
やっぱり彼にも見えている?