彼がそう言ったときハッとした。
そういえばカエルがフロントガラスに降ってきた際に、『一緒にいないと困るのは、あやめじゃないのか?』と別人のような彼が私に尋ねたことを思い出したのだ。
あれはどういう意味だったんだろう。
あのあと彼は、またいつもの弱気な十文字くんに戻り、何事もなかったかのように振る舞っていた。
時々記憶がなくなると言っていたが、あのときもそう?
「とにかくやってみよう。皆最初は不安なの。でも、なんとかなるものよ」
気休めかもしれないが、励ましてみる。
しかし彼は肩を落とすだけで「はい」とは言わなかった。
「それより、病院行った?」
「あっ、はい。異常ないそうです」
「そっか。記憶がなくなるというのは?」
「それはよくわからないみたいで」
お医者さんが異常なしと言うなら、ひとまずは安心だ。
でも、あの別人が乗り移ったかのような彼は気になる。